日本の酒造りはどのような学びを得られるか

アジアのビジネス文化は、昔からお酒と切っても切れない関係にありました。ビジネスでも友人同士の飲み会でもお酒が必要だし、人との関係を手っ取り早く深めるにはお酒しかないように思えます。とはいえ、実際にお酒好きの若者はどのくらいいるのでしょうか。 

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中国ではお酒を好まない若者が増えているというデータもあり、ネット企業などを立ち上げた若い起業家たちは、商談の場をお酒の席からカフェに移したり、WeChatのグループ内で電話をして協力するかどうかを決めたりしているそうです。中国ではお酒を楽しむ文化が薄れつつあり、伝統的なお酒のメーカーは明らかにこのことに注目しています。

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2022年5月29日、中国を代表するお酒である茅台酒(マオタイシュ)と中国最大の乳製品会社蒙牛乳業が共同開発した茅台アイスクリーム3種が、中国で発売されました。

そのアイスクリームは、「梅酒」、「オリジナル」と「バニラ」の3種類があります。

価格はそれぞれ59人民元、66人民元と66人民元となります。

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そして、茅台アイスクリームよりも容量が25g多いハーゲンダッツ(中国人の認識では最も高価なアイスクリームブランド)ですら43人民元で購入できます。茅台アイスクリームは、当面は貴陽(貴州茅台酒股份有限公司本社所在地)、杭州、深セン、広州、武漢など一部の都市でのみオフラインで販売されているため、それ以外の地域でコールドチェーン配送もしくはオンライン購入する際には物流会社への配送料(1件につき45人民元)が必要です。ただし、配送料を足しただけでは届けてもらうことはできず、通常は買取業者に2,000円程度を支払って代行してもらうことになります。このアイスクリームには、アルコール度数53度の茅台酒がわずか2%含まれています。

貴州茅台酒股份有限公司は強力なオフライン流通能力を持っているにもかかわらず、供給を厳しく管理し、茅台アイスクリームを一部の都市でしか販売させないようにしています。茅台アイスクリームに「希少性」を持たせる意図があるため、貴州茅台酒股份有限公司はアイスクリームに頼って儲けるのではなく、広告マーケティングによって買いにくい現象を作り出しています。減少している若い客層を取り込むため、若い世代に茅台の「高級・高価」というブランドイメージを醸成することを狙っています。

コンサルタント会社ローランド・ベルガーの調査結果によると、中国での酒類消費の消費年齢は主に45歳です。80年代生まれと90年代生まれの消費者は26%に留まり、消費者層の断絶と若者の離脱が白酒(パイチョウ)市場を著しく冷え込ませています。『2020年若者の酒類消費調査報告書』によると、90年代生まれと95年代生まれの若者は酒類市場の重要な一部です。ところが、30歳未満の中国人消費者のアルコール消費量に占める白酒の割合はわずか8%で、ビール、ワイン、プレミックス飲料などの低アルコール飲料よりはるかに低いです。しかし、年末年始に若者が年長者に敬意を表し、指導者に贈るために購入する酒としては、中国産白酒が最適です。

茅台アイスクリームの発売は、従来の茅台酒の「安定性・ビジネスライク」という固定観念を打ち破り、アイスクリームという購入頻度が高い新商品を通じて、若い消費者にリーチすることを実現します。話題性を高め、より多くの若者を茅台に引き付け、潜在的な消費者層を掘り起こすことを狙います。「白酒を飲むのは年配の男性だけ」という固定観念を変えます。

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茅台アイスクリームは発売当初、多くの買い占め客や一般消費者を集めました。発売のニュースはマイクロブログサイトですぐに話題になり、多くのメディアやKOLに報道され、オンラインでの発売開始後51分で倉庫にあるものが完全に完売、4万個以上を販売し取引額は5千万円以上となりました。これは、中国でも「中国の若い消費者を喜ばせようとするマオタイによるマーケティングキャンペーン」と解釈されました。

面白いのは、「飲酒運転」で捕まらないように、「マオタイアイスを食べた後は運転しないでください」との公式メッセージが出されたことです。

最近になって、伝統的な中国企業は、若い顧客市場に目を向けるようになっており、多くの酒類会社が、業界の垣根を越えた共同ブランディングに取り組んでいます。

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2018年には、同じく中国の有名な酒ブランドである瀘州老酒がワイン風味の香水を発売し、2019年には日本でも有名な中国のメイクアップブランドである花西子との共同ブランドまで展開し、花西子Florasis(フローラシス)ルースパウダーと瀘州老酒果実酒のセットを販売し、若い女性層の注目を大いに集めました。2020年は2000年代生まれの男性市場を攻略するため、大人気なアニメ映画『姜子牙』の酒をカスタマイズしたものを発売し、市場で好評を博しました。


伝統的な酒販店である姜小白も、「量を減らし度数を下げる」ことで、若者に人気な低アルコール白酒やフルーツ白酒を導入しています。また、ボトルには、中国の若者の考え方を表現した様々なキャッチフレーズを用いることで、多くの若者の共感を呼び、生活のストレスを解消しています。

日本の酒は世界中の消費者に愛されていますが、長い歴史を持つ日本企業にとって、若い消費者の台頭は、自国や海外の若者を取り込むための大きな課題です。


この記事を書いた人

曾 穎 (ソウ エイ) 早稲田大学卒業。日本留学中、上海糖糖文化传播有限公司を設立。自らの留学生活をベースにした漫画を中国のネットで連載し、インフルエンサーとしての人気を確立する。大学在学中に同道文化株式会社を設立し、日本企業の中国進出をサポート。中国進出コンサルティング、プロモーション、中国のSNS運用代行など、一気通貫で幅広い領域のサービスを提供する。2018年に北京糖糖文化传播有限公司を設立、2019年にはForbes 30Under30 CHINA 受賞。2020年3月には「武漢からの恩返し」と書かれた段ボール箱を持ち、支援物資の恩返しとして道行く人にマスクを配りメディアで話題となった。